核酸医薬(Nucleic Acid Therapeutics)とは、DNA・RNAなどの核酸またはその化学修飾体を有効成分とする医薬品の総称です。1998年にFDAが初の核酸医薬(フォミビルセン:CMV網膜炎治療薬)を承認して以来、技術の発展とともに承認品目が増加し、2020年代には主要な医薬品モダリティの一つとして確立されつつあります。
核酸医薬は、遺伝子の転写・翻訳過程に介入し、疾患に関与するタンパク質の産生を制御します。低分子化合物でターゲティングが難しい「undruggable targets(創薬困難標的)」への対応や、希少疾患・遺伝子疾患への応用が期待されています。
| モダリティ | 作用機序 | 製造方法 | 承認品目例 |
|---|---|---|---|
| ASO(アンチセンスオリゴヌクレオチド) | 標的mRNAに結合し、翻訳抑制またはmRNA分解を誘導 | 固相合成法(化学合成) | エテプリルセン(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)、ヌシネルセン(脊髄性筋萎縮症)等 |
| siRNA(低分子干渉RNA) | RNA干渉(RNAi)機構を利用し標的mRNAを分解 | 主に固相合成法(化学合成) | パチシランやインクリシランなど(高コレステロール血症・TTRアミロイドーシス等) |
| mRNA | 細胞内でタンパク質を産生させる | in vitro転写(IVT):酵素反応による製造(細胞培養型バイオ医薬とは異なる) | mRNAワクチン(COVID-19等)、治療用mRNA(開発中多数) |
| アプタマー | 標的タンパク質に高親和性で結合し機能阻害 | 固相合成法(化学合成) | ペガプタニブ(加齢黄斑変性)等 |
ASOやsiRNAの製造には固相合成法(Solid-Phase Synthesis)が主に用いられます。固体担体(レジン)にアミダイト試薬と呼ばれるヌクレオチド構成単位を1塩基ずつ逐次的に結合させ、目的の配列のオリゴヌクレオチドを合成します。
この方法の特徴として、配列が長くなるほど収率が低下しやすく(カップリング効率の累積的な影響)、また化学修飾(フォスフォロチオエート結合、2'-修飾など)の導入によってさらに技術的難易度が上がります。合成後は精製(逆相HPLC、イオン交換クロマトグラフィー等)によって未反応体・失敗配列(n-1体等)を除去し、高純度の製品を得ます。
mRNAの製造はASOとは根本的に異なり、酵素反応を用いたin vitro転写(IVT)による製造が中心です。従来の細胞培養型バイオ医薬とは異なる特性を持ちますが、化学合成とも異なる専用の製造体制が必要です。DNAテンプレートを鋳型に、RNAポリメラーゼを用いたIVTによってmRNAを合成します。合成後のキャッピング(5'キャップ構造付加)、ポリA付加、精製(HPLCや接線流濾過等)が品質に大きく影響します。
また、mRNAは極めて不安定でRNase(RNA分解酵素)による分解リスクがあるため、製造環境のRNase管理が極めて重要です。さらに、脂質ナノ粒子(LNP)等のデリバリーシステムへの封入工程も含む場合、製造の複雑性がさらに増します。
核酸医薬の品質管理は、低分子医薬品とは異なる特有の課題を持ちます。
目的の配列(例:20塩基のASO)が正確に合成されているか確認するために、質量分析(MS)による配列確認が行われます。n-1体(1塩基欠損)やn+1体などのインプロパティー配列(不純物)の管理が重要です。
フォスフォロチオエート修飾や2'-修飾など、化学修飾の導入率・位置が規格通りであることを確認する分析法の確立が必要です。
特にmRNAでは、未修飾のウリジン残基が免疫原性を誘発しやすいため、シュードウリジン(ψU)等の修飾ヌクレオシドが使用されます。また、注射製剤では内毒素(エンドトキシン)の管理が重要であり、バイオ医薬品向けガイドライン(ICH Q6B等)も参考にしつつ、核酸医薬特有の品質管理戦略が求められます。
mRNAは特に不安定であり、一般に低温(-80°C付近)での保存が用いられますが、製剤設計により保存条件は異なります(-20°Cや2〜8°Cでの短期保存が可能な場合もあります)。CMOにおける安定性試験の実施体制および適切な保存設備の有無も確認が必要です。
日本では、核酸医薬の需要増大を受け、国産の核酸医薬製造能力の整備が産業・政策的課題として認識されています。経済産業省の資料等でも、核酸医薬を含む次世代モダリティ対応のCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)の国内整備の必要性が指摘されています。
現状では、オリゴヌクレオチド(ASO・siRNA)に対応する国内CMOは一部に存在しますが、mRNA製造については国内でも整備が進みつつあるものの、商用スケール対応施設は限定的であり、海外CMOの活用も一般的です。
一方、日本の製造業者が持つ強みとして、以下が挙げられます。
今後、国内CMOの核酸医薬対応能力が整備されていくことで、グローバル開発を進める製薬企業にとって日本CMOの選択肢が広がる可能性があります。
| 確認項目 | 詳細 |
|---|---|
| 対応可能なモダリティ | ASO・siRNA・mRNAのいずれに対応しているか。製造プロセスが根本的に異なるため明確に確認 |
| 合成スケール・製造能力 | μmolレベルの治験薬製造から商用スケール(kg〜数十kg)まで対応可能か |
| 精製技術 | イオン交換・逆相HPLCによる精製技術と、n-1体等の不純物管理実績があるか |
| RNase管理(mRNA) | mRNA製造の場合、RNase管理・専用区域の設定がなされているか |
| LNP製剤化対応 | 脂質ナノ粒子(LNP)等のデリバリーシステムへの封入対応、または信頼できる製剤CMOとの連携があるか |
| 分析・品質試験能力 | 質量分析(MS)による配列確認、内毒素試験、安定性試験の実施体制があるか |
| 規制対応・GMP適合 | 核酸医薬のGMP製造に関する規制ガイドラインへの適合と規制当局査察実績(ICH Q6B等も参考にしつつ核酸特有の管理に対応) |
| 知財管理 | 配列情報を含む機密情報の管理体制(NDA・CDA等の取扱い)が適切か |
核酸医薬は、低分子化合物・抗体医薬に続く第3の主要モダリティとして、急速に存在感を増しています。しかし、その製造は化学合成(ASO・siRNA)と酵素反応によるIVT(mRNA)で根本的に異なり、いずれも高度な専門設備と技術が求められます。
CMOの選定においては、まず委託するモダリティに対応した製造能力・設備を確認することが出発点です。また、配列確認・不純物管理・安定性試験など品質管理の特殊性も考慮に入れ、開発フェーズに応じた適切なパートナー選択が成功の鍵となります。
日本での核酸医薬製造能力は整備が進みつつありますが、特にmRNAについては欧米CMOとの比較も視野に入れた選定が現実的です。